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かれはむかしのかれならず

彼は昔の彼ならず

太宰 治

線上閱讀太宰 治《彼は昔の彼ならず(かれはむかしのかれならず)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,274 字 · 57 頁

青空文庫

たように貯金のようなものであるから、それは、まあ、どうでもよかった。けれども屋賃をいれてくれないのには、弱ったのである。僕はそれでも五月までは知らぬふりをしてすごしてやった。それは僕の無頓着と寛大から来ているという工合いに説明したいところであるが、ほんとうを言えば、僕には青扇がこわかったのである。青扇のことを思えば、なんとも知れぬけむったさを感じるのである。逢いたくなかった。どうせ逢って話をつけなければならないとは判っていたが、それでも一寸のがれに、明日明日とのばしているのであった。つまりは僕の薄志弱行のゆえであろう。

五月のおわり、僕はとうとう思い切って青扇のうちへ訪ねて行くことにした。朝はやくでかけたのである。僕はいつでもそうであるが、思い立つと、一刻も早くその用事をすましてしまわなければ気がすまぬのである。行ってみると、玄関がまだしまっていた。寝ているらしいのだ。わかい夫婦の寝ごみを襲撃するなど、いやであったから、僕はそのまま引返して来たのである。いらいらしながら家の庭木の手入れなどをして、やっと昼頃になってから僕はまたでかけたのだ。まだしまっていたのである。