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かれ だいに
彼 第二
線上閱讀芥川 竜之介《彼 第二(かれ だいに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,491 字 · 12 頁
」
「うん、情人、……まだある。宗教上の無神論者、哲学上の物質主義者……」
夜更けの往来は靄と云うよりも瘴気に近いものにこもっていた。それは街燈の光のせいか、妙にまた黄色に見えるものだった。僕等は腕を組んだまま、二十五の昔と同じように大股にアスファルトを踏んで行った。二十五の昔と同じように――しかし僕はもう今ではどこまでも歩こうとは思わなかった。
「まだ君には言わなかったかしら、僕が声帯を調べて貰った話は?」
「上海でかい?」
「いや、ロンドンへ帰った時に。――僕は声帯を調べて貰ったら、世界的なバリトオンだったんだよ。」
彼は僕の顔を覗きこむようにし、何か皮肉に微笑していた。
「じゃ新聞記者などをしているよりも、……」
「勿論オペラ役者にでもなっていれば、カルウソオぐらいには行っていたんだ。しかし今からじゃどうにもならない。」
「それは君の一生の損だね。」
「何、損をしたのは僕じゃない。世界中の人間が損をしたんだ。」
僕等はもう船の灯の多い黄浦江の岸を歩いていた。彼はちょっと歩みをとめ、顋で「見ろ」と云う合図をした。靄の中に仄めいた水には白い小犬の死骸が一匹、緩い波に絶えず揺すられていた。