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のちのなりひらぶんじ
後の業平文治
三遊亭 円朝
線上閱讀三遊亭 円朝《後の業平文治(のちのなりひらぶんじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,545 字 · 216 頁
涙を流しながら、お町の手を握って引寄せますると、足もとから長さ三尺にも余ります蛇(くちなわ)がのたりを打ってずる/\/\。お町は驚いて、「あれッ」と夫に凭(もた)れかゝりますと、
文「町や、こんな事は毎日の事じゃ、何(ど)うも致しはせぬ、お町々々」
と呼べども答えはございませぬ。文治は眼をこすりながら、
文「えゝ、また夢か、馬鹿々々しい」
総身の汗を拭いまして、
文「もう夜(よ)が明けたのか、誠や聖人に夢なしとか、心の清らかなる人に夢のあるべき筈はない、我は夜(よる)となく昼となく夢現(ゆめうつゝ)に心を痛め、さながら五臓を掻きむしらるゝの思い、武士の家に生れながら腑甲斐(ふがい)なし」
と我と我が心に愧(は)じて、焚火の辺(ほとり)にてほッと息を吐(つ)く折しもあれ、怪しや弦音(げんおん)高く一枝(いっし)の征矢は羽呻(はうな)りをなして、文治が顔のあたりを掠(かす)めて、向うの立木(たちき)に刺さりました。
文「やア今の夢といい、また矢の飛び来(きた)りしは此の身の助かる前兆か知らん、此の身が彼(あ)のまゝ寝ていたら、或は此の矢のためにあたら命を失ったかも知れぬ、妻の夢のため眼を覚せしところを見れば、定めしお町が八百万(やおよろず)の神々に此の身の無難を祈っている