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ただなおきょうぎょうじょうき

忠直卿行状記

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《忠直卿行状記(ただなおきょうぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,602 字 · 47 頁

青空文庫

そして、潔く主君の長槍に貫かれて、自分の罪を謝そうとしていた。

忠直卿は、五、六合立ち合っているうちに、相手の右近が、急所というべき胸の辺へ、幾度も隙を作るのを見た。この男も、自分の命を捨ててまで主君を欺き終ろうとしているのだと思うと、忠直卿は不快な淋しさに襲われて来た。そして、相手にうまうまと乗せられて勝利を得るのが、ばかばかしくなって来た。

が、右近は一刻も早く主君の槍先に貫かれたいと思ったらしく、忠直卿が突き出す槍先に、故意に身を当てるようにして、右の肩口をぐさと貫かれてしまった。

忠直卿は、見事に昨夜の欝憤を晴らした。が、それは彼の心に、新しい淋しさを植えつけたに過ぎなかった。左太夫も右近も、自分の命を賭してまで、彼らの嘘を守ってしまったことである。

忠直卿は、その夜遅く、傷のまま自分の屋敷に運ばれた右近と左太夫との二人が、時刻を前後して腹を割いて死んだという知らせを聞いて、暗然たる心持にならずにはいられなかった。

忠直卿は、つくづく考えた。自分と彼らとの間には、虚偽の膜がかかっている。その膜を、その偽りの膜を彼らは必死になって支えているのだ。