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ただなおきょうぎょうじょうき

忠直卿行状記

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《忠直卿行状記(ただなおきょうぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,602 字 · 47 頁

青空文庫

その偽りは、浮ついた偽りでなく、必死の懸命の偽りである。忠直卿は、今日真槍をもって、その偽りの膜を必死になって突き破ろうとしたのだが、その破れは、彼らの血によってたちまち修繕されてしまった。自分と家来との間には、依然としてその膜がかかっている。その膜の向うでは、人間が人間らしく本当に交際っている。が、彼らが一旦自分に向うとなると、皆その膜を頭から被っている。忠直卿は自分一人、膜のこちらに取り残されていることを思い出すと、苛々した淋しさが猛然として自分の心身を襲って来るのをおぼえた。

四

真槍の仕合があって以来、殿の御癇癖が募ったという警報が、一城の人心をして、忠直卿に対して恟々たらしめた。殿の御前だというと、小姓たちは瞳を据え息を凝らして、微動さえおろそかにはしなかった。近習の者も、一足進み一足退くにも儀礼を正しゅうして、微瑕だに犯さぬことを念とした。君臣の間に多少は存在していた心安さが跡を滅して、君前には粛殺たる気が漂った。家臣たちは君前から退くと、今までにない心身の疲労を覚えた。

しかし、君臣の間がこうして荒み始めようとするのに気がついたのは、決して家来の方ばかりではなかった。