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おもいだすことなど
思い出す事など
線上閱讀夏目 漱石《思い出す事など(おもいだすことなど)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,003 字 · 113 頁
十九
余を看護するために、余の視線の届かぬ傍らを占めた人々の姿は、余に取って神のそれと一般であった。
余はこの安らかながら痛み多き小世界にじっと仰向に寝たまま、身の及ばざるところに時々眼を走らした。そうして天井から釣った長い氷嚢の糸をしばしば見つめた。その糸は冷たい袋と共に、胃の上でぴくりぴくりと鋭どい脈を打っていた。
朝寒や生きたる骨を動かさず
十九
余はこの心持をどう形容すべきかに迷う。
力を商いにする相撲が、四つに組んで、かっきり合った時、土俵の真中に立つ彼等の姿は、存外静かに落ちついている。けれどもその腹は一分と経たないうちに、恐るべき波を上下に描かなければやまない。そうして熱そうな汗の球が幾条となく背中を流れ出す。
最も安全に見える彼等の姿勢は、この波とこの汗の辛うじて齎らす努力の結果である。静かなのは相剋する血と骨の、わずかに平均を得た象徴である。これを互殺の和という。二三十秒の現状を維持するに、彼等がどれほどの気魄を消耗せねばならぬかを思うとき、看る人は始めて残酷の感を起すだろう。
自活の計に追われる動物として、生を営む一点から見た人間は、まさにこの相撲のごとく苦しいものである。