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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
線上閱讀小酒井 不木《怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集(みっつのあざ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 頁
後には、牛込の寓居に残して来た妻子のことや、半分なげやりにして来た会社の仕事のことなどが思い出されて、とりとめのない考えにふけっていたのである。
梅雨どきのこととて、国府津を過ぎる頃は、雨がしきりに降り出して、しとしとと窓を打ち、その音が、私の遣瀬ない思いを一層強めるのであった。列車内は煙草の煙が一ぱいで、旅客の中には眠っているものもあれば、まだ盛にはしゃいでいるものもあったが、薄暗い電灯の光に照された陰影の多い人々の顔には、何となく旅の悲愁といったようなものが漂っていた。そうして私の気のせいか、人々の顔には「魔の列車」であることを意識して警戒するような表情が読まれた。ふと、私の前の、人相の悪い人に眼をやると、その人は軽い鼾をかいて眠っていた。
でも、そのうちに考え疲れたためか、私はいつの間にかうとうととしていた。列車が浜松を過ぎたころであったと思う。車内がにわかに騒々しくなったのに眼をさまして、何事か起きたのかと注意すると、車掌やその他の鉄道従業員があわただしく往来していた。私は妙な予感に襲われて、私の前の座席を見ると色眼鏡をかけた人相の悪い人はどこかへ行ったと見えてその場にいなかった。