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こいのでんしちろう
恋の伝七郎
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《恋の伝七郎(こいのでんしちろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 頁
道を右へ切れると、大きな杉の木が林になっている、その奥に古びたお堂があった、そこへいって娘の体を下ろす。とたんに二人とも反ざまにぶっ倒れて、今にも死にそうにはあはあと喘いだ。
「の、喉が渇いて、灼けつきそうだ」伝七郎が干からびたような声で云った、忠太もようやく起きあがって、「よし、おいらが水を捜して来よう、その間おめえはお嬢さんと堂の中で隠れていてくんな」こう云って忠太は、伝七郎といっしょに娘をお堂の中へ抱え込んだが、そのとたんに、「ひゃっ」と妙な声をだして跳び上った、「びっくりするじゃないか、なんだ」「あれを見な」「ええ」ふり返って見ると、伝七郎も思わず声をあげそうになった、ついそこに閻魔大王の像が安置してあるのだ、高さ六尺ばかりで、他の部分はよくわからないが、厳めしい顔の金を塗った大きな眼が、闇の中におどろおどろしくこっちを睨みつけている、「なんだ閻魔の木像じゃないか」「ひょいと見たら鼻っ先にあの顔があったんだ、おらあ胆が潰れたぜ、しかしこれでようやく見当がついた、これは梁瀬川の渡しへ出る道だぜ」「するとこれは赤閻魔だな」「こいつは思いがけねえ好都合だ、渡し舟を掠って海へぬけるという手がある、が、とにかく水を捜して来よう」