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きょうふじょう

恐怖城 他5編

佐左木 俊郎

線上閱讀佐左木 俊郎《恐怖城 他5編(きょうふじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 143,735 字 · 290 頁

青空文庫

猟奇の街

東京は靄の濃い晩秋だった。街は靄から明けて靄の中に暮れていった。――冷えびえと蠢いているこの羅の陰には何事かがある? 本当に、何事かが起こっているに相違ない?――彼は東京の靄が濃くなるごとに、この抽象的な観念に捉えられるのだった。猟奇的な気持ちでありながら、また一種の恐怖観念なのであった。

彼はある朝早く、濃い靄に包まれている街の中を工場地帯に向けて歩いていた。どこか遠くの遠くから夜明けの足音が静かに近づいてくる。――ぎりりゅう、と骨を擦り合わせるように電車が軋る。犬が底の底から空腹を告げる。自動車の警笛が眠い頭を揺り醒ましていく。気忙しくドアの開かれる音。――靄の中に錯綜する微かな雑音が、身辺の危険区域まで近づいてきては遠ざかり、遠ざかってはまた脅かすように羅のすぐ裏まで忍び寄ってくるのだった。

敷石道を蹴立てる靴音のその音波で、靄はうらうらと溶けていった。その裂け目からバラックの建物が浮き出してくる。道は間もなく橋にかかった。黒い木橋は夢の国への通路のように、幽かに幽かに、その尾を羅の帳の奥の奥に引いている。そして空の上には、高層建築が蜃気楼のように茫と浮かんでいた。