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きょうぞうのちち

恭三の父

加能 作次郎

線上閱讀加能 作次郎《恭三の父(きょうぞうのちち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,742 字 · 20 頁

青空文庫

手紙

恭三は夕飯後例の如く村を一周して帰って来た。

帰省してから一カ月余になった。昼はもとより夜も暑いのと蚊が多いのとで、予て計画して居た勉強などは少しも出来ない。話相手になる友達は一人もなし毎日毎日単調無味な生活に苦しんで居た。仕事といえば昼寝と日に一度海に入るのと、夫々故郷へ帰って居る友達へ手紙を書くのと、こうして夕飯後に村を一周して来ることであった。彼は以上の事を殆ど毎日欠かさなかった。中にも手紙を書くのと散歩とは欠かさなかった。方々に居る友達へ順繰に書いた。大方端書であった。彼は誰にも彼にも田舎生活の淋しい単調なことを訴えた。そして日々の出来事をどんなつまらぬ事でも書いた。隣家の竹垣に蝸牛が幾つ居たということでも彼の手紙の材料となった。何にも書くことがなくなると、端書に二字か三字の熟語の様なものを書いて送ることもあった。斯んなことをするのは一つは淋しい平凡な生活をまぎらすためでもあるが、どちらかと言えば友達からも毎日返事を貰いたかったからである。友達からも殆ど毎日消息があったが時には三日も五日も続いて来ないこともあった。そんな時には彼は堪らぬ程淋しがった。