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あくじゅうへん
悪獣篇
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《悪獣篇(あくじゅうへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,715 字 · 73 頁
二人は靄の薄模様。
「構わんですから、私の衣服でお拭きなさい。
何、寒くはないです、寒いどころではないですが、貴女、裾が濡れましたで、気味が悪いでありましょう。」
「いえ、もう潮に濡れて気味が悪いなぞと、申されます身体ではありません。」と、投げたように岩の上。
「まだ、おっしゃる!」
「ははは、」と廉平は笑い消したが、自分にも疑いの未だ解けぬ、蘆の中なる幻影を、この際なれば気もない風で、
「夢の中を怪しいものに誘い出されて、苫船の中で、お身体を……なんという、そんな、そんな事がありますものかな。」
「それでも私、」
と、かかる中にも夫人は顔を赧らめた。
「覚えがあるのでございますもの。貴下が気をつけて下すって、あの苫船の中で漸々自分の身体になりました時も、そうでした、……まあ、お恥かしい。」
といいかけて差俯向く、額に乱れた前髪は、歯にも噛むべく怨めしそう。
「ですが、ですが、それは心の迷いです。昨日あたりからどうかなさって、お身体の工合が悪いのでしょう。西洋なぞにも、」
言の下に聞き咎め、
「西洋とおっしゃれば、貴下は西洋の婦人の方が、私のつかまっておりました船の中を覗いて見て、仔細がありそうに招いたのを、丘の上から御覧なすって、それでお心着きになりましたって。