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わたしのちちとはは

惜しみなく愛は奪う

有島 武郎

線上閱讀有島 武郎《惜しみなく愛は奪う(わたしのちちとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 34,351 字 · 70 頁

青空文庫

片信

A兄

近来出遇わなかったひどい寒さもやわらぎはじめたので、兄の蟄伏期も長いことなく終わるだろう。しかし今年の冬はたんと健康を痛めないで結構だった。兄のような健康には、春の来るのがどのくらい祝福であるかをお察しする。

僕の生活の長い蟄眠期もようやく終わりを告げようとしているかに見える。十年も昔僕らがまだ札幌にいたころ、打ち明け話に兄にいっておいたことを、このごろになってやっと実行しようというのだ。自分ながら持って生まれた怯懦と牛のような鈍重さとにあきれずにはいられない。けれども考えてみると、僕がここまで辿り着くのには、やはりこれだけの長い年月を費やす必要があったのだ。今から考えると、ようこそ中途半端で柄にもない飛び上がり方をしないで済んだと思う。あのころには僕にはどこかに無理があった。あのころといわずつい昨今まで僕には自分で自分を鞭つような不自然さがあった。しかし今はもうそんなものだけはなくなった。僕の心は水が低いところに流れて行くような自然さをもって僕のしようとするところを肯んじている。全く僕は蟄虫が春光に遇っておもむろに眼を開くような悦ばしい気持ちでいることができる。