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あいとにんしきとのしゅっぱつ
愛と認識との出発
倉田 百三
線上閱讀倉田 百三《愛と認識との出発(あいとにんしきとのしゅっぱつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 64,420 字 · 129 頁
でなくてはならなかった。それからというものは、お互いに血眼になって「尊きもの」を探してる。だから当然内容の如何を問わず、ある尊きものに面接したときハッとして立ち止まる。このとき言い知れぬ懐しさを感ずるのだ。君と僕とが鎌倉で無名の社に詣でたときこれを経験したではないか。さて私はS君と滑らかな林道を辿った。私の心には懐しき尊さが訪れて僕はそれと応接すべくS君とは口を利かなかった。S君の趣味があまりに低級にして、感情がいかにも粗笨に思われたからである。やがて二人は祇園桜に出た。群衆は競うてその側に集まる。紅提燈に灯がともる。空は灰色からだんだん暗黒になってゆく。それから都踊りを見た。私は踊りに関しては門外漢だから論じられぬが、美わしき舞子が、美わしく装うて、美わしき背景の前に、美わしく舞うたのはさすがに美わしかった。そのとき音楽ということが稲妻のごとく私の頭に光明を与えてまた行ってしまった。上野の森の夕闇の逍遙に、君が音楽の価値を論じて私共が音楽の世界にストレンジャーであるのを嘆いたが、いま花やかなる踊り場の中にあって、調子の整った三味の音、鼓、大鼓、笛の響きを聞いたとき、ほんとにそうだとつくづく思った。