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あいとにんしきとのしゅっぱつ

愛と認識との出発

倉田 百三

線上閱讀倉田 百三《愛と認識との出発(あいとにんしきとのしゅっぱつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 64,420 字 · 129 頁

青空文庫

しかし根拠の原理を離れた世界、すなわち本体界にあって、万物の至上の根源、物自爾としての実在は差別無く、個体としてでなき渾一体の意志である。この渾一体の意志は下は路上に生うる一葉より、上は人間に至るまで、完全に現われている。たとえばその意志は幻燈の火のごときものである。ただ映画によって濃きも淡きも生じて白い帷の上にさまざまの姿を映す。そのさまざまの姿こそ万物である。

これに次いで前述の認識、表象という文字が湧き起こる。主観を離れて客観はなく、客観を離れて主義はない。これに連接せしめて「表象なくば自己意識なし」ということを考えてみれば、どうも自己意識は絶対的には成立せぬらしい。唯我論は動揺せねばならない。いわゆる、利己、利他の行動は、本来この偉大なる渾一体としての意志の発現ではあるまいか。本体界の意志という故郷を思慕するこころは宗教の起源となり、愛他的衝動の萌芽となるのではあるまいか。これじつに遠深なる形而上学の問題である。

何が人生において最もよきことぞと問い顧みるとき、官能を透してくる物質の快楽よりも、恋する女と、愛する友と相抱いて、胸をぴたりと融合して、至情と至情との熱烈なる共鳴を感ずるそのときである。