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あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《或る男の手記(あるおとこのしゅき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 43,279 字 · 86 頁

青空文庫

後で私は知ったのであるが、北海道の女には、殊に不品行な女には、そういう眼付を持ってる者が多いようである。然しただ彼女の眼付には、不品行などという影は少しもなく、固より処女ではなさそうだけれど、濁りのない純な光が輝いていた――が或はそれも、純白な白目のせいかも知れない、と今になって私は思う。この女が、月岡光子だった。私はその温泉に五六日滞在していたので、光子とは可なり親しみが出来た。彼女自身の云う所に依れば、彼女は札幌の文房具屋の娘で、遠い縁続きになるその温泉宿へ、保養旁々来ていた所が、女中の手が足りなくなったために、一時余儀なく手伝いをしてるのだそうだった。やがては女中も来るから、そしたら暫くの間、見物がてら東京へ出るつもりだなどと云って、先生と私のことを呼びながら、私の住所なんかを聞きただした。話の調子や趣味やなんかから、私を文士かなんぞのように誤解したものらしい。私は面倒くさいから強いてその誤解を解こうともせず――実は私も英語の小説の飜訳なんかを内職にしてるので、文士のはしくれと云えば云えないこともなかったのだ――また、別に彼女に対してどういう気持もなく、ただその黒目を見るだけで満足していた。