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げさくざんまい

戯作三昧

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《戯作三昧(げさくざんまい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,807 字 · 42 頁

青空文庫

そうして、かたく筆を握りながら、何度もこう自分に呼びかけた。

「根かぎり書きつづけろ。今己が書いていることは、今でなければ書けないことかも知れないぞ。」

しかし光の靄に似た流れは、少しもその速力をゆるめない。かえって目まぐるしい飛躍のうちに、あらゆるものを溺らせながら、澎湃として彼を襲って来る。彼は遂に全くその虜になった。そうして一切を忘れながら、その流れの方向に、嵐のような勢いで筆を駆った。

この時彼の王者のような眼に映っていたものは、利害でもなければ、愛憎でもない。まして毀誉に煩わされる心などは、とうに眼底を払って消えてしまった。あるのは、ただ不可思議な悦びである。あるいは恍惚たる悲壮の感激である。この感激を知らないものに、どうして戯作三昧の心境が味到されよう。どうして戯作者の厳かな魂が理解されよう。ここにこそ「人生」は、あらゆるその残滓を洗って、まるで新しい鉱石のように、美しく作者の前に、輝いているではないか。……

×   ×   ×

その間も茶の間の行燈のまわりでは、姑のお百と、嫁のお路とが、向い合って縫い物を続けている。太郎はもう寝かせたのであろう。