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おしえとたびするおとこ
押絵と旅する男
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《押絵と旅する男(おしえとたびするおとこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,416 字 · 35 頁
文楽の人形芝居で、一日の演技の内に、たった一度か二度、それもほんの一瞬間、名人の使っている人形が、ふと神の息吹をかけられでもした様に、本当に生きていることがあるものだが、この押絵の人物は、その生きた瞬間の人形を、命の逃げ出す隙を与えず、咄嗟の間に、そのまま板にはりつけたという感じで、永遠に生きながらえているかと見えたのである。
私の表情に驚きの色を見て取ったからか、老人は、いとたのもしげな口調で、殆ど叫ぶ様に、
「アア、あなたは分って下さるかも知れません」
と云いながら、肩から下げていた、黒革のケースを、叮嚀に鍵で開いて、その中から、いとも古風な双眼鏡を取り出してそれを私の方へ差出すのであった。
「コレ、この遠眼鏡で一度御覧下さいませ。イエ、そこからでは近すぎます。失礼ですが、もう少しあちらの方から。左様丁度その辺がようございましょう」
誠に異様な頼みではあったけれど、私は限りなき好奇心のとりことなって、老人の云うがままに、席を立って額から五六歩遠ざかった。老人は私の見易い様に、両手で額を持って、電燈にかざしてくれた。今から思うと、実に変てこな、気違いめいた光景であったに相違ないのである。