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こしゃいんのひとこといまなおせいしん

故社員の一言今尚精神

福沢 諭吉

線上閱讀福沢 諭吉《故社員の一言今尚精神(こしゃいんのひとこといまなおせいしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,661 字 · 4 頁

青空文庫

明治元年正月、伏見の変乱、前将軍慶喜公は軍艦に乗て東帰、次で諸方の官軍は問罪として東海東山の諸道より江戸に入り、関東の物論沸くが如く、怒て官兵に抗せんとする者あり、恐れて四方に遁逃する者あり。江戸広しと雖ども、市に売る者なし、家に織る者なし。学者書生の如きもその行く所を知らず、大都会中復た一所の学校を見ず、一名の学士に逢わず。独り我慶應義塾の社中は、偶然の発意にして断じて世事に関せず、都下の東南芝新銭座の塾舎に相集りて眠食常に異ならず、弾丸雨飛の下、唔の声を絶たざること殆ど半年、社中自称して戦場中の一小桃源と云いしは蓋しこの時なりき。

この際に当て府下百万の人民は一時に方向を失い、固より官軍の何ものたるを知らず、仮令い東征の名義云々は伝聞するも、その官軍なるものが江戸に入たる上は何等の挙動あるべきや、之を測量すること甚だ易からず。数百年来未だ曾て見ざる所の軍事なれば、軍人とあれば必ず乱暴なるものならん、乱暴人は之を避くるに若かずとて、下等社会の群民は無論、上流の士人にても或は俄に家を挙げて藩地に帰る者あり、或は近郷に故旧あれば暫時これに身を寄する者あり。