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ぶんげいのてつがくてききそ

文芸の哲学的基礎

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《文芸の哲学的基礎(ぶんげいのてつがくてききそ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 49,519 字 · 98 頁

青空文庫

人によると、生涯に一度も無我の境界に点頭し、恍惚の域に逍遥する事のないものがあります。俗にこれを物に役せられる男と云います。かような男が、何かの因縁で、急にこの還元的一致を得ると、非常な醜男子が絶世の美人に惚れられたように喜びます。

「意識の連続」のうちで比較的連続と云う事を主にして理想があらわれてくると、おもに文学ができます。比較的意識そのものの内容を主にして理想があらわれて来ると絵画が成立します。だからして前者の理想はおもに意識の推移する有様であらわれて来ます。したがってこの推移法が理想的に行く作物は、読者をして還元的感化をうけやすくします。これを動の還元的感化と云います。それから後者の理想はおもに意識の停留する有様であらわれて来ます。だから停留法がうまく行くと、すなわち意識が停留したいところを見計って、その刹那を捕えると、観者をして還元的感化をうけやすくします。これを静の還元的感化と云います。しかしながらこれは重なる傾向から文学と絵画を分ったまでで、その実は截然とこう云う区別はできんのであります。しばらくこの二要素を文学の方へかためて申しますと、推移の法則は文学の力学として論ずべき問題で、逗留の状態は文学の材料として考えるべき条項であります。