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どうじ

文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子(どうじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,454 字 · 357 頁

青空文庫

後の日の童子

一

一

夕方になると、一人の童子が門の前の、表札の剥げ落ちた文字を読み上げていた。植込みを隔てて、そのくろぐろした小さい影のある姿が、まだ光を出さぬ電燈の下に、裾すぼがりの悄然とした陰影を曳いていた。

童子は、いつも紅い塗のある笛を手に携えていた。しかしそれを曾て吹いたことすらなかった。

植込みのつたの絡んだ古い格子戸の前へ出て、この家のあるじである笏梧朗は、そういう童子のたずねてくる夕刻時を待ち慕うていた。青鷺の立ち迷う沼沢の多かったむかしにくらべ、この城外には、甍を立てた建物が混み合っていた。

「きょうは大層おそかったではないか、どうしてからだを震わせているのか、犬にでも会ったのか。」

「いいえ、お父さん。」

童子は、頭をふって見せた。柔らかい唐黍のような紅毛が、微風に立ちそよいだ。

「いつもお父さんのおうちのそばへ来ると、妙にからだがふるえるのです。べつに何んでもない。」

「それならいいけれどね。また加減をわるくするといけないから。」

笏梧朗は父親らしい手つきで、童子の、絹のような頬に掌をあてた。

「お母様は?」

童子は、そういうと家の中をさし覗いた。ココア色をした小鳥が離亭の柱に、その朱塗の籠のなかで往き来し、かげは日影のひいたあたりには既う無かった。