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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《日本の怪談(ぎじんのすがた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 頁

青空文庫

などと云って笑った。今はそんなことを云う者もなくなったが、最近まで犬神持ちの家とは結婚しなかった。

「彼処(あすこ)の姨(おば)さんの眼を見ろ、光っているじゃないか」

犬神持ちの家の人は、違った光る眼を持っていると云われていた。私の知っている老婆は、神経的な光のある眼をしていた。

私の郷里は土佐の海岸であった。今はどうか知らないが、私の郷里には好く流行(はやり)神様と云うものが出来た。昨日まで何もなかった野原や畑の間に、急に小さな祠が出来て、それに参詣する者が赤や白の小さな幟をあげた。

「彼処の流行神様は、躄(いざり)が歩きだした」

「盲目の遍路の目が見えだした」

などと流行神様の噂が村の人の口から口に伝えられる。その流行神様の本尊は、古い名も知れない石塔であったり石地蔵であったり、狸であったりしたが、中でも多いのは狸であった。

「あれは、其(ある)処の狸じゃ」

村の人はその狸の名まで知っていた。狸が流行神様になるには、村の人に度たび憑いたあげく、

「俺を神として祭れば、もう人に憑かない」

などと云いだして、それで祭るようになるのであった。

何時の比(ころ)であったか、私の村に甚内と云う力士があったが、その甚内は狸に憑かれる人があると、その人の背から肩を揉んで、狸を追いだした。