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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《日本の怪談(ぎじんのすがた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 頁

青空文庫

「あってるかね、そりゃあってるよ、毎日邸で見てるからね」

用人は頭を傾げて旅僧が如何なる者であるかを考えようとした。

「私が判るかね」

旅僧は嘲笑いを続けている。

「判りません、どうした方です」

「私(わし)は貧乏神だよ」

「え」

「三代前から――の邸にいる貧乏神だよ」

「え」

「私(わし)がいたために、病人ができる、借金はできる、長い間苦しんだが、やっと、その数が竭(つ)きて私は他へ移ることになったから、これから、お前さんの主人の運も開けて、借金も返される」

話のうちに草加の宿は通り過ぎたが、用人は霧の深い谷間にいるような気になっていて気がつかなかった。

「だから、これから、お前さんの心配も無くなるわけだ」

用人はその詞(ことば)を聞くとなんだか肩に背負っていた重荷が執れたような気がした。

「では、あなた様は、これから何方(どちら)へお移りになります」

「私(わし)の往くさきかの、往くさきは、隣の――の邸さ」

「え」

「其処へ移るまでに、すこし暇ができたから、越谷にいる仲間の処へ遊びに来たが、明日はもう移るよ」

用人はその名ざされた家のことを心に浮べた。

「お前さんが嘘と思うなら、好く見ているが好い、明日からその家では、病人ができ、借金ができて、恰好(ちょうど)お前さんの主人の家のようになるさ」