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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

ここで言えないで、どこでそれを言うの?」

「あんたはんがようおいでやす下河原の家へこれからいて待っとくれやす。そしたら私あとからいきます。ここの家から一緒にゆくのはここの家へ対していけまへんやろ。それから私一遍家へ去んで、あっちゃから往きます」女の持ち前の愛想のない調子でそんなことをいう。

私はまた女のいうことにいくらか不安をも感じたが、本来それほど性情の善くない女とは思っていないので、だんだん疑いも解け、その気になり、

「じゃ、そうするから、きっとあそこへ来なければいけないよ」と、根押しをして、その上もうあまりくどくいわぬようにして、そこの家は体よくして、二人は別々に出て戻った。

それから私はまた、いつかの下河原の家へ行って待っていた。それは日の永い五月の末の、まだ三時ごろであったが、彼女は容易にやって来なかった。悠暢な気の長い女であることはよく知っているので、そのつもりで辛抱して待っていたがしまいには辛抱しきれなくなって、いいようのない不安の思いに悩まされているうちに、高い塀に取り囲まれている静かな栽庭にそろそろ日が影って、植木の隅の方が薄暗くなり、暖かかった陽気が変ってうすら寒く肌に触るようになってきた。