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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
「ほんまの親一人子ひとりの頼りない身どすさかい、どうぞよろしゅうお願いいたします」といって、悲しい鼻にかかる声で、今のように零落せぬ、まだ一家の困らなかった時分のことなどを愚痴まじりに話してきかせた。その話によると、彼女の家はもと同じ京都でも府下の南山城の大河原に近い鷲峯山下の山の中にあったのであるが、二、三十年前に父親が京都へ移ってきた。故郷の山の中には田畑や山林などを相当に所持していたが随分昔のことで、その保管を頼んでいた人間が借金の抵当に入れてすっかり取られてなくしてしまった。
「あれだけの物があればこの子にこない卑しい商売をさせんかて、あんたはん結構にしていられますのや」母親は心細い声でそんな古いことまでいっていた。
女もそこに坐って、黙って母親と私との話を聴いていたが、大きな黒い眼がひとりでに大きくなって充血するとともに玉のような露が潤んだ。
「もう古いことどすやろ」と、彼女はただ一口おとなしく言って、母親の話もそれきりになった。
その後夏の終りごろまでも京都の地にいる間たまに母親のところへも訪ねていってそのたびごと女の後々のことなど繰り返して話していたのであった。