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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
「それはそうだったろう。ずぶの世間知らずが、どっちを向いても性の知れない者ばかりのところへ入って来たのだから。……それでも体さえ無事でいればまた先きで好いこともある」
「ほんまに体一つ残っているだけどっせ」彼女はそういって笑った。「残っているのは、あの古い長火鉢と、あの掛硯だけどす」
私はまたそこらを見廻した。箪笥の上には、いろんな細々した物を行儀よく並べていたが、そこには小さい仏壇もあった。私はそれに目をつけて、
「あの仏壇は?」
「あれも新しいのどす。お母はん、こっちゃへ来る時古い仏壇を売るのが惜しゅうて」女はそういってまた柔和に笑った。
私も笑いながら立ち上って、その小さな仏壇の扉を開けて中に祀ってあるものをのぞいて見た。一番中央に母子の者の最も悲しい追憶となっている、五、六年前に亡くなった弟の小さい位牌が立っている。そして、その脇には小さい阿弥陀様が立っていられる。私は何気なく、手を差し伸べてそれを取ってみようとすると、その背後に隠したように凭たせかけてあった二枚の写真が倒れたので、阿弥陀様よりもその方を手に取り出してよく見ると、それは、どうやら、女の死んだ父親でも、また愛していた弟の面影でもないらしい。