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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

そして出し抜けに私がはいって来たのを見て、

「ああ!」と慴えたように中声を発して、そのままそこに立ち竦んだ。

私は、いい気味だというように強いて笑いながら、

「お園さん、一遍あんたに会いたいと思っていたのだ」と、つとめて優しくいいつつ、私はそのまま茶の間へ上がって、火鉢の手前にどっかと坐ってしまった。

女はそこらをかたづけていたらしかったが、もう、おずおずしながらしかたなく自分も上にあがって、向うの方に膝を突きながら、

「あんたはんが今ここへ来ておくれやしたんでは、私、どない言うてええかわかりまへん」と悄然としてふるえ声にいう。その眼は何ともいえない悲痛な色をして私を見ている。

私は、気味がいいやら、可愛いやらである。

そこへ、がらがらと表の潜戸の開く音がして、母親が戻って来た。

三

私は、入って来た時、よっぽど、あの潜戸の猿を落して、母親に閉め出しを食わしてやろうかと思ったが、それも、あんまり意地が悪いようで、それまでにはし得なかった。それというのも、そうまでになっても、私の心の内は、やっぱり何とかして、母子の心が、自分の方へ向いてくるように優しく仕向けたいからであった。