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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

母親は通り庭から中の茶の間の前に入ってくると、思いがけなく、火鉢の向うに私が来て坐っているのを見ると、びっくりしてたちまち狂気のようになって怒り出した。

「あんたはん、何でここの家へ入っておいでやした。ここは私の家とちがいます」と、いいながら上り框をあがって、娘に向って、

「お前もどうしてるのや、よう気いおつけんか。あんたが入れたんやろ」と、小言をいう。娘はじっとそこに坐ったまま、

「わたし、そんなことをしいしまへん。この方が自分で入っておいでやした」と尋常な調子でいっている。

私はじっと両腕を組んで、その場の光景を見ながら、母親から何といわれても、ふてぶてしく黙り込んで、身動きもせずに坐っていた。すると、母親は、さすがに手出しはし得なかったが、今にも打ちかかって来そうな気勢で、まるで病犬が吠えつくような状態で、すこし離れたところから、がみがみいっている。

「あんたはん、何の権利があってここの家へ黙って入っておいでやした。ここの家は私の家と違いまっせ」と、いいつつ肱を突っ張ってだんだん私の傍に横から擦り寄って来て、

「黙ってよその家へ入り込んで来て、盗人……盗人!」