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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

私は彼女に面と向って怨みのたけを言いたかった。

「ええ、それで姉さん今ここへ来やはります。……お母はんには、あんたはんは、もうとうにここからお帰りやしたことにして」と、入口の方に気を配りながら、越前屋の主人はその前に坐っている婆さんにも聞えぬように、そうっと私の耳のところに口を持ってきて押っつけるようにしながら「それからなお姉さんがこんなことをいうてはりました。――えらい失礼やけど、もしまたあんたはんがお小遣いでもお入用どしたら私の手を経て姉さんの方からどうともしますよって、そのこともちょっというといてくれ言うてはりました」

私は、それをじいっと聞いていて、越前屋の主人の口から静かに吐き出す温かい息が軟かに耳朶を撫でるように触れるごとに、それが彼女自身の温かい口から洩れてくる優しい柔かい息のように感じられて、身体が、まるで甘い恋の電流に触れたように、ぞくぞくとした。

主人が口を離すのを待って、私は、嬉しさに堪えかねた気持で、

「ああ、そうですか。そんなことをもいいましたか。……いやしかし、それだけ聞けば満足です。私ももう何年もの間彼女のことばかり思い続けて何をするにも手につかずお話のならぬ不自由な目をして来ましたが、まさか私一人の用くらいに事は欠きませんから、そんな心配は無用にしてくれ、それよりも一日も早く