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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

私は心の中で今日は不思議に調子が柔かいなと思いながら、座敷の入口の方でわざと腰を卑うしていると、女主人はわだかまりのない物の言い振りで、

「さあ、ずっとこちらへお越しやす」

と、年はもう五十の上を大分出ていると聞いているにもかかわらず、声はまだ、まるで二十余りの女のように柔和である。顔から容姿から、とてもそんな年寄りとは思えない。これがその昔祇園街で全盛を誇った薄雲太夫の後身かと思うと、私は妙な好奇心にも駆られながら、そう打ち融けた言葉をかけられたのを機会に、

「は、どうぞ、ご免なさいまし」

といって、さっと起って長火鉢のこちら側まで進んで小婢のなおした座蒲団の上に坐った。

色気のない束髪に結って、何かしら野暮な物を着た大柄で上品に見える女主人は柔和な顔で、二、三日前に持っていった物の礼をいったり、今までいつ訪ねて往っても留守がちであったりしたことを言って「こんな商売をしてますよって、朝は遅うおすし、昼からは毎日お詣りにゆくか、そでなけや活動が好きでよう活動見に往きますよって、いつも夜の今時分からでないと家にいいしまへんもんどすさかい」と、若い声でいっていた。