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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁

青空文庫

私はお宮がそんなにしているのが分ると、さっきから一ぱいに塞がっていた胸がたちまち和らかに溶けて軽くなったようになった。そして兜橋の上まで来ると欄に凭れてお宮の追っかけて来るのを待っていた。

「あなたどこへゆくつもり? こんな寂しいところに人をうっちゃっておいて」むきになって傍に寄って来た。

「どこへも行きやしないさ。お前が怠儀そうにして歩いているから私は一緒に歩くのが焦れったくなったばかりさ」私は冷やかな口調でいった。

「…………」

「私、これから帰って、清月にいって菊ちゃんを呼んでもらおうかしら!」独語のように考えかんがえいってやった。

「あの女、君とちがって何だか優しそうだ」そういいながらも私の心の中はお宮に対して弱くなっていた。

「そんなによけりゃ呼んだらいいじゃありませんか。さっきから菊ちゃんきくちゃんて、菊ちゃんのことばかりいっているんだもの」

暗黒の中に恐ろしい化物かなんぞのように聳り立った巨大な煉瓦造りの建物のつづいた、だだッ広い通りを、私はまた独りで歩き出した。水道の敷設がえでもあるのか深く掘り返した黒土が道幅の半分にもりあげられて、暗を照らしたカンテラの油煙が臭い嗅いを漲らしている。