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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
と思いながらも、自分も優しい声をつくって、
「ふむ、そうか。それはいけないねえ」と、いいつつまたお宮の頭髪から足袋のさきまでじろじろ見まわした。
春着にこしらえたという紫紺色の縮緬の羽織にお召の二枚重ねをぞろりと着ている。
「こんな着物が着たさに淫売をしているのだなあ」と思うと唾を吐きかけてやりたい気になりながら、私は鳶衣の袖で和らかにお宮を抱くような格好をして顔を覗いて、「おい、この下駄はだれの下駄?」と、男下駄を指さした。
「…………」
「おい、この下駄はだれの下駄?」
「それは柳沢さんの」
お宮は例の癖の泣くような声を出した。
「そうだろう。……洋食屋で朝からお楽しみだねえ」
私は気味のいいように笑った。
「じゃあねえ、先だって君に話したとおり、もう君の心もよく分ったから、どうぞ私から上げてある手紙を返しておくれ」私は一段声をやわらげていった。
「ええ……」と、お宮は躊躇らうようにしている。
「おい、早くしてくれ。君たちにもお邪魔をして相済まぬから」
「じゃ、ちょっと待って下さい」と、いってお宮はまた二階に上っていった。
私は階下でどかりと椅子に腰を落して火のごとく燃える胸をじっと鎮めていた。