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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《日本婦道記(にほんふどうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,743 字 · 22 頁

青空文庫

……この婦人たちを忘れては百千の烈女伝も意味がない、まことの節婦とは、この人々をこそさすのでなくてはならぬ」

藤右衛門は呟きおわって空へ眼をあげた。彼はいま稿本「松の花」に序すべき章句をおもいついたのである。まつりごとをあずかるものの心すべきは、みえざるところをおろそかにせぬことだ、「松の花」はあらわれた烈女たちを伝えるだけでなく、世にかくれたる節婦のおおいことをもあきらかにすべきである、「……やす」藤右衛門は夜の空に妻のおもかげを描きながら呟いた。

「おまえはわしに世にあらわれざる節婦がいかなるものかを教えてくれたぞ」

そして稿本をひらき、しずかに朱筆をとりあげた。

彼はいまふしぎなほど新らしい昂奮を感じていた。燭の光にうつしだされた横顔にも、ひさしくみえなかった充実した色があらわれたし、ひきむすんだ唇のあたりには、まだ御勝手がかりをつとめていた頃のきびしい力感さえよみがえってきた。――妻は生きているのだ、息災でいた頃よりも、あざやかに紙一重の隙もないほどぴったりと彼の心に溶けこんでいる、春風のようにおっとりとした顔、やさしく韻のふかいもの云い、しずかな微笑……なにもかもはっきりと彼の心のなかに生きているのだ、更けてゆく夜のしじまに、彼はあでやかな妻のおもかげと相対するような気持で、しずかに朱筆をはこば