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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《日本婦道記(にほんふどうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,743 字 · 22 頁
藤右衛門はしばらく眼をとじていたが、やがて低く呟くように云った。
「……よい、ゆけ」
金三郎は障子をしめて去った。
しもべの女房たちまでが、実の親のようにしたっていたという。それは考えるまでもなく差別を無視した云いかたである、日頃の藤右衛門なら一言のもとに叱りつけるところだった、けれども金三郎の言葉のなかにはなにか心をうつものがあった、主人を親よりもたいせつに思うということは、当時の世風としてはきわめてあたりまえなことだ、然し金三郎の云った意味はそのようなものではない、もっとふかく、もっとじかに訴えてくるものがあった。それは亡き妻と、かれらのあいだだけにゆるされるもので、彼にはうかがい知ることもできず、また拒む余地もないことがらのように思えた。――あれはどのようなことをしてやったのであろう。藤右衛門はまたしても、自分の知らぬ妻の一面をみつけておどろかされた。
看経の声はしめやかにつづいていた。十二時をまわってから、それがちょっと途絶えたので、香をあげようと思って立っていったが、襖のそとまでゆくと、部屋のなかで人々のむせび泣く声がしていた。それはいままで誰が泣いたよりも悲痛な、胸を刺しとおす響きをもっていた。