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にちりん

日輪・春は馬車に乗って 他八篇

横光 利一

線上閱讀横光 利一《日輪・春は馬車に乗って 他八篇(にちりん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,787 字 · 177 頁

青空文庫

三

」

「爾は彼を伴のうて食を与えよ。」

「良きか、旅の者は病者のように痩せている。」

大兄は黙って若者の顔を眺めた。

「大兄、爾はここにいて我を待て、我は彼を贄殿へ伴なおう。」卑弥呼は毛皮を被って若者の方を振り向いた。「我に従って爾は来れ。我は爾に食を与えよう。」

「卑弥呼、我は最早や月を見た。我はひとりで帰るであろう。」大兄は彼女を睥んでいった。

「待て、大兄、我は直ちに帰るであろう。」

「行け。」

「大兄よ。爾は我に代って彼を伴なえ、我は此処で爾を待とう。」

「行け、行け、我は爾を待っている。」

「良きか。」

「良し。」

「来れ。」と卑弥呼は若者に再びいった。

若者は、月の光りに咲き出た夜の花のような卑弥呼の姿を、茫然として眺めていた。彼女は大兄に微笑を与えると、先に立って宮殿の身屋の方へ歩いていった。若者は漸く麻鞋を動かした。そうして、彼女の影を踏みながらその後から従った。大兄の顔は顰んで来た。彼は小石を拾うと森の中へ投げ込んだ。森は数枚の柏の葉から月光を払い落して呟いた。

三

身屋の贄殿の二つの隅には松明が燃えていた。一人の膳夫は松明の焔の上で、鹿の骨を焙りながら明日の運命を占っていた。