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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《旧主人・芽生(きゅうしゅじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 頁
そんな冷淡な挨拶があるものか。折角こうして、お前に見せようと思って持って来たものを……何とか、一言位」
「ですから拝見しましたと言ってるじゃ有ませんか」
旦那様は口を噤んで了いました。御互に物を仰らないのは、仰るよりも猶か冷い心地がしましたのです。旦那様は少許震えて、穴の開く程奥様の御顔を熟視ますと、奥様は口唇に微な嘲笑を見て、他の事を考えておいでなさるようでした。やがて、旦那様は御盃を取上げて、熟々眺めながら歎息を吐いて、
「そう女というものは男の事業に冷淡なものかな。今までは、もうすこし同情が有るものかと思っていた」
「どうせ私なぞに貴方がたの成さる事は解りません」
「無論さ。何も解って貰おうとは言やしない。同情が無いと言ったんだ。男の事業が解る位なら、そんな挨拶の出来よう筈もない。まあ、私の言うことを能く聞いてくれ。自慢をするじゃアないが、今日小諸の商業は私の指先一つでどうにでも、動かせる。不景気だ、不景気だ、こう口癖のように言いながらも、小諸の商人が懐中の楽なのは、私が銀行に巌張っているからだ。町会の事業でも、計画でも、皆私の意見を基にしてやっている。