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はるのとうぞく

春の盗賊

太宰 治

線上閱讀太宰 治《春の盗賊(はるのとうぞく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 頁

青空文庫

お役に立たず、残念に思います、といって、大いに笑えば、警察のひとも、私の耄碌をあわれみ、ゆるしてくれるのではないか、と思う。重ね重ね、私がぱちんと電燈を消したということは、全く私の卑劣きわまる狡智から出発した仕草であって、寸毫も、どろぼうに対する思いやりからでは無かったのである。私は、どろぼうの他日の復讐をおそれ、私の顔を見覚えられることを警戒し、どろぼうのためで無く、私の顔をかくすために、電燈を消したといわれても、致しかた無いのである。まさに、それにちがいなかった。

「すみません。」どろぼうは、ばかなやつ、私のそれほどこまかい老獪の下心にも気づかず、私が電燈消したことに対して、しんからのお礼を言いやがった。

「雨が、まだ降っているかね?」

「いいえ、もう、やんだようです。」まるで、おとなしくなっている。

「こっちへ来たまえ。」私は、火鉢をまえにして坐って、火箸で火をかきまわし、「ここへ坐りたまえ。まだ、火がある。」

「え。」どろぼうは、きちんと膝をそろえてかしこまって坐った様子である。

「少し、火鉢から、はなれて坐っていたほうがいいかも知れないな。」私は、いい気持である。