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しゅんせつ
春雪
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《春雪(しゅんせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,672 字 · 23 頁
ボーイにチニー夫人の都合を聞かせにやると、お待ちしているという返事だったので、二人はエレヴェーターで三階へ行った。
明るい窓際の机の上に写真立が載っている。いつかの青年と柚子が枠の中にべつべつにおさまって笑っていた。
奥の間へつづく扉が開いて、六十歳ぐらいに見える、やさしげな眼差をした白髪の婦人が、銀の握りのついた黒檀の杖を突きながら、そろそろと出てきた。
伊沢が池田を紹介すると、池田は、わざと日本語で、
「このたびは、ふしぎなご縁で」と丁寧に挨拶した。
伊沢が通訳するのを、老人は首をかしげながら聞いていたが、ふしぎ、ふしぎ、と味わうようにいくども口の中でくりかえしてから、
「おう、そうです」
と池田のほうへ手を伸ばした。
この手は、柚子が生きていたら、どんなにかよろこんで握るはずの手だった。そのときの柚子の顔を想像すると、気持まではっきりと伝わってくるようで、なかなか離しがたい思いがするのだった。