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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(五)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(五)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,744 字 · 434 頁

青空文庫

それも一つの楽しみであると、老人は説明した。

「きょうも八幡様の市へ来たので、その足ついでに寄ったのですが……。あなたは何処へ……」

「わたしも市を観に来たんですが……」

「はは、今の若い方にしちゃあお珍らしい。帰りは洲崎へでもお廻りですか」と、老人は笑いながら云った。

「いや、そんな元気はありません」と、わたしも笑った。

二人は話しながら連れ立って境内にはいった。老人は八幡の神前でうやうやしく礼拝していた。そこらを一巡して再び往来へ出ると、老人はどこかで午飯を食おうと云い出した。宮川の鰻もきょうは混雑しているであろうから、冬木の蕎麦にしようと、誘われるままにゆくと、わたしは冬木弁天の境内に連れ込まれた。

名月や池をめぐりて夜もすがら

例の芭蕉の句碑の立っている所である。蕎麦屋と云っても、池にむかった座敷へ通されて、老人が注文の椀盛や刺身や蝦の鬼がら焼などが運ばれた。池のみぎわには蘆か芒が枯れ残っていて、どこやらで雁の声がきこえた。

「静かですね」と、わたしは云った。

「ここらもだいぶ変ったのですが、それでも赤坂やなんぞのようなものじゃあありません。さすがに江戸らしい気分が残っていますね」