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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(六)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(六)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,831 字 · 396 頁

青空文庫

かえって先方では寝耳に水の家出沙汰におどろかされて、長三郎にむかって前後の事情などを詳しく詮議した。それらのために案外に暇取って、小梅を出たのは、もう七ツ(午後四時)を過ぎた頃であった。

旧暦の二月なかばであるから、春の彼岸ももう近づいて、寺の多い小梅のあたりは彼岸参りの人を待つかのように何となく賑わっていた。寺門前の花屋の店さきにも樒がたくさん積んであった。それを横眼に見ながら、長三郎は綾瀬村の方角をさして堤下を急いでゆくと、堤の細路を降りて来る一人の侍に出逢った。侍は長三郎に声をかけた。

「瓜生の御子息ではないか」

呼ばれて見かえると、それは鯛の御納屋の今井理右衛門であった。瓜生の家と今井の家とは直接の交際はなかったが、同じ御納屋の役人同士であるから、今井と白魚河岸の吉田とは無論に懇意であった。その吉田と御賄屋敷の黒沼とは親戚関係であるので、瓜生の家でも自然に吉田を識り、それから惹いて今井をも識るようになったのである。長三郎もその人を見て会釈すると、理右衛門は笑いながら訊いた。

「どこへ行かれる。御墓参かな」

「いえ。綾瀬村まで……親類かたへ参ります」