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くらがりのおとまつ
暗がりの乙松
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《暗がりの乙松(くらがりのおとまつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,992 字 · 25 頁
「その桶屋というのは何者ですえ?」
「武蔵屋政吉、素性を洗えば『暗がりの乙松』という人さ」
「げえっ……?」
三次は反った、「そ、それじゃあ、お前さんは乙松親分じゃねえのですか」
「昨夜宿の亭主が云ったのを聞かなかったかえ、私は沼津の酒問屋で、梅田屋宗兵衛という若隠居さ」
男はそう云って、凄みのある顔に和やかな微笑を浮べた。
「それでもあの薗八節は?」
「ああ、あれかえ」
梅田屋は笑いだした、「あれはね、今から三年前の秋、妙な機会で暗がりの乙松と知合いになり、その時あれから教えてもらったのさ――乙松が京へ行ったのもその時のことで、今では職人の五六人も使って立派に暮しているそうだ。私のつまらぬ洒落っ気が、それでもあの人を堅気にしたと思うと、まんざら悪い道楽じゃあなさそうだね」
「といいなさるのは……」
「商売人と見りゃ近づいて盗んだ跡の愁嘆を見せるのが私の道楽さ、はははは」
梅田屋宗兵衛のことばは、温かく力強く三次の胸へ滲込んでいった。
「さあ行こう、京へのぼって手に職がついたらそう云ってよこすがいい、店を出すくらいの金は都合してあげよう」
「…………」
三次は無言のまま、万感あふれ出る眼で、じっと梅田屋宗兵衛の横顔を覓めた。