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こよみ
暦
壺井 栄
線上閱讀壺井 栄《暦(こよみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 頁
おばあは若い時大飯食いでなあ」
そう聞くと、孫どもはああそうか、そんならしかたがないとでもいうように、ふうん、という顔をする。すると、そんな話を何度か聞いたことのある大きい孫が、
「甚作どんが逃げんか、逃げんかいうたんよ」と、知っていることをまた聞く。
「おお、逃げんか、逃げんかいうてな」
かやはなおも歯を出して笑う。色の白い頬の肉が赤ん坊のように垂れ下り、目尻に三四本の皺をよせる。甚作というのが重吉の父親であった。船乗りであった甚作が伊勢の的矢の港でコレラにかかって死んだ時、かやは二十六であった。病気が病気であったため、乗組の連中は甚作の髪の毛さえも持って帰ってはくれなかった。まだ世は明治にもならぬ時のことで、船が戻ってくるまで誰もそれを知らなかった。世の中がだんだん開けるにつれてかやは一度は甚作の墓にまいりたいと思い暮してとうとう腰が曲ってしまった。その間に一度、伊勢講のくじが当って重吉が伊勢へ行った。講の連中はたいていひと年入れた者か、隠居役の爺さん媼さんの楽しみ事であるのであったが、かやは重吉をむりにすすめて自分は行かなかった。まだ独り身であった重吉が顔も知らない父親の墓を訪ねたことはいうまでもなく、墓石の下の土を一握り、手拭に包んで持って帰った。