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こよみ
暦
壺井 栄
線上閱讀壺井 栄《暦(こよみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 頁
それでもひとたび千吉が家の細道を、昔のままの猫背をよけい丸めたような姿で息せききって現れ、親方あ、と声がかかると重吉は、よし来た、と立ち上る。このごろでは千吉が呼びに来るのが楽しみで、重吉はいそいそと竹割を持って浜へ下りていった。杖こそついてはいないが、だいぶ前こごみになっていた。そんなにまでしないでも家でじっと遊びより、とクニ子がとめても聞かなかった。
海辺に面した道路端で、その日も重吉は竹を割っていた。白い中身をそぎ取られて、細かく割られた竹はまるで魂を入れかえられたようにしなやかに伸びて、重吉の傍にうず高く重なり合っている。砂で磨き、刃物で手入れをされた竹は表皮の艶を消されて落ちついた青さであった。ぱさっと地をはたくように振ると、一握りの竹はのたうって揃う。ふと重吉は、竹を握る手の感覚に異常を感じて掌をひろげてみた。細かくふるえた。ここ一カ月ほど前から躯の工合が悪いのを、春先の陽気のせいと思っていたのだが、今日はことにのぼせる。胡坐を組みなおし、鉢巻をはずして両手で顔をこすった。皮膚が硬ばっているようで後頭部が重苦しかった。これはいかんと向い合って仕事をしていた千吉を呼ぼうとしたがもう口が利けなかった。