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あらしのなか
暴風雨の中
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《暴風雨の中(あらしのなか)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 頁
は違うのに、みんなほかの女たちと同じものを持っていた。おれのなにより嫌いなものを、……おれは逃げだした、逃げ出さずにはいられなかった、……けれども、それだけじゃなかった」彼は眼をあいて、ぼんやり天床を見まもった、「そうじゃねえ、嫌いなものじゃあねえ、ただ嫌いというのじゃあねえ、なにかしら、……そうだ、それとはべつのものだ、おれを逃げださせたのはそのほかのものだ」
はっと三之助は首をあげた。この家の北側のどこかへなにかの突き当る音がした。音というよりは響きであった、そうひどくはないが、たしかになにかが突き当ったようだ。
「――あの娘かもしれねえ」
三之助は自分に云った。
「――きっとそうだ、おしげだ」
首をあげたまま、三之助はじっと耳をすました。風雨の音のなかから、次に起こるであろう物音を聞き取ろうとした。二階の屋根瓦が飛ばされたらしい、からからと音がして、うしろの庇へ落ちるのが聞えた。三之助は立って、廊下へ出た。さっと雨が顔を打った。吹飛ばされた雨戸の間から、鼠色に濁ったいちめんの水が見えた。彼は風と雨に叩かれながら、半身を乗りだして、いま物音のした方を覗いて見た。