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つきのまつやま

月の松山

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《月の松山(つきのまつやま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 頁

青空文庫

七

七

早ければ百日と云われた。その百日がすでに七十日ちかく経っている、また医者の予告した症状が、殆んどその予告どおりに経過していた。それを忘れようとして、孝也は乱暴に飲んだ。

「そんな必要はないだろうが」と隣りの客が云った、「しかし伏せるだけは伏せるか」

「あんまり油断はできないんだ、あれでいまは師範の次くらい使うんだから」

「なに、真剣勝負はべつさ」もう一人がそう云った、「道場の試合と真剣勝負はべつものさ、まあ見ていろ、まあ見ていてもらおう」

孝也は襖のほうへ振返った。話し声はその襖のすぐ向うから聞えて来る。孝也は飲むのをやめて耳をすませた。

「じゃあおれは先へ帰る」と一人が云った、「これから三浦へまわって打合せをしておこう、時刻は十時だったな」

「松山までかなりあるから、そうさ」とべつの声(その声には聞き覚えがあった)が云った、「そうさな、九時まえに坪田へ来てもらおうか」

その声には聞き覚えがあった。孝也はそれが日野数右衛門の声だということを知っている。そうして、かれらの断片的な話から、孝也は敏感に一つの事情をまとめあげた。

――真剣勝負。師範の次くらい使う。