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さっぽろまで

札幌まで

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《札幌まで(さっぽろまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,545 字 · 14 頁

青空文庫

これも地獄変相絵巻の一場面である。それと没交渉に秋晴の太陽はほがらかに店先の街路に照り付けていた。この年になって、こんな処へ来て、こんな光景を初めて目撃しようとは夢にも想わないことであった。旅はすべきものである。

五稜郭行というバスを見かけて乗る。何某講と染め抜いた揃いの手拭を冠った、盛装に草鞋ばきという珍しい出で立ちの婦人の賑やかに陽気な一群と同乗した。公園の入口にはダリアが美しく咲いて森閑とした園内を園丁が掃除していた。子供の時分によく熱病をわずらって、その度に函館産の氷で頭を冷やしたことであったが、あの時のあの氷が、ここのこの泥水の壕の中から切り出されて、そうして何百里の海を越えて遠く南海の浜まで送られたものであったのかと思うと、この方が中学校の歴史で教わった五稜郭の戦いに関する感慨よりも更に深くエゴイストの心に触れるものがある。これは我が幼き日における深く限りなき父母の慈愛の想い出につながるからである。帰路のバスを待っていると葬礼の行列が通る。男は編笠を冠り白木綿の羽織のようなものを着ている。女は白頭巾に白の上っ被りという姿である。遺骨の箱は小さな輿にのせて二人でさげて行くのである。