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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《松林蝙也(まつばやしへんや)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 頁

青空文庫

「――はい」

「合図をしますから」

二人は左右へ別れた。――蝙也は呼吸も紊さず眠っている、町は胸の顫えを抑えながら、両手で杉戸を掴んだ。道雄はなお、しばらく寝息を窺っていたが、やがてよしと見て合図をした、二枚の杉戸が凄じい勢で両方から一時に蝙也の頭へ殺到した。

がっ※(感嘆符二つ、1-8-75)

という音。

「しめた!」

と思って見ると、意外や、閉まったはずの杉戸は一尺二三寸も間が明いており、当の蝙也は平然として笑っていた。

「あ、これは……」

町が思わず声をあげると、

「あはははは失敗だな」

といって蝙也が身を起した、みると閾の溝に鉄扇が置いてあった。

「駄目だ駄目だ、こんなことで蝙也を驚かそうとしても無駄だぞ。これでは暇をやるのも先の長いことらしいな、ははははは」

「…………」

「まあ水でも持って来てくれ、それからいま四五人やって来るから、町も一緒に螢を見に参ろう」

「はい」

町は不思議な安堵を感じながら立った。自分の失敗はむろん口惜しかったが、確固たるものが確固として動かない事実を慥めた時、誰しも感ずる大きな安堵――その気持を強く生々と感じたのである。

間もなく人数が揃ったので、蝙也は町をもともに連れて出掛けた。