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ますおとし
枡落し
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁
それが十幾年も続いたのだ。ぐれだしてからの千太郎はおみきに触れたこともなく、おうめを抱いたこともなかった。金の必要なとき帰ってくるだけで、あとは寄りつきもしない。そしてたまに帰ってくれば、金や金になりそうな物を奪ってゆくのである。近所でも評判になり、町役人からもたびたび注意をされた。
――なにが原因だろう、とおみきはいつも考えていた。なにが気に入らないのだろう、あたしを嫌いなのだろうかと。じかに幾たびかきいてもみたが、千太郎はなにも答えなかった。いってみれば縁もゆかりもないならず者が、ときどき踏み込んで来ては、うちの金や物を掠ってゆく、というかたちであった。いちばん困るのは、千太郎のいないときに、ごろつきのような男が泥酔して泊り込むことで、そういうときには懇意にしていた近所の家へ頼んで、母子が泊めてもらうより仕方がなかった。
どうにも風儀が悪いので、近所の人たちが町役へ訴えたのだろう、どこかへ移ってくれと云われた。家も自分の物ではなくなったし、しいて居据わる気はなく、まもなく下谷御徒町の裏店へ引越したのであった。
差配のよろず屋藤吉がたいそうひいきにしてくれ、亭主とは離別して、新らしいくらしを考えなさい、としばしばすすめられた。