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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

彼は玉川在の百姓の子に生れた。上の二人は女、男は彼一人だった。田が三段に畑が一段という貧しい百姓で、みのりのいいとしでも、親子五人のくらしは楽ではなかった。

「おやじは温和しいいっぽうの、酒もタバコも口にしない、ほとけさまみたいな人だった」と芳造は云った、「百姓だけではやっていけないから、玉川でしじみをとったり、季節の川魚をとったりして売りあるいたもんだ、そのあいだおふくろはどうしていたと思う、ひる日なかから村の若い者を呼んで、酒を飲んだり悪ふざけをしたり、唄をうたったりして、のうのうとくらしてたんだ」

おれが六つ七つになったころには、上の姉二人は出奔してしまった。氷のような玉川の水にはいって寒蜆をとったり、それを父といっしょに宿場へ売りにいったりするのに、耐えられなくなったのであろう。それともほかにわけがあったのかもしれない、幼ない彼にはわからなかったが、二人の姉はいなくなり、まもなく、父親も頓死した。

「おれが七つになったとしの正月、川崎の宿でしじみを売りあるいているうち、急に血を吐いて倒れたんだって、――戸板で担ぎ込まれたとき、おふくろは村の若者たちを集めて酒を飲み、陽気に騒いでいたんだ」