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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《桑の木物語(くわのきものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 頁
沈んだ顔色をして、ともすると黙りこんで、ぼんやりどこかを眺めるというふうなことが多くなった。――病気が悪くなったのかと案じられたが、医者は寧ろ恢復しつつあると云っていた。そのうち悠二郎はふと、正篤が国にいるじぶんから、幾たびもそんなようすをみせたことを思い出し、そこになにか理由があって、そうしてそれが現在まで糸をひいているのではないか、と、想像してみたりした。
昏れがたから雨になったある夜のこと、ちょうどまた二人きりのときだったが、とりとめのない話がふととぎれて、どちらもいっとき、しんしんと庇を打つ雨の音に聴きいっていた。そしてかなり経ってから、正篤は枕の上で仰向いたまま、喉にからんだような声でこう云った。
「悠二郎、おまえ浅草へはいつゆくんだ」
それはもうたびたび云われることであった。悠二郎はさりげなく、いつものように答えた。
「もう本復もまのないことですから、ごいっしょにお供を致します、独りでまいっても面白くはございません」
「そうではあるまい、浅草へもゆきたいが、おれの側を離れることができないのだろう」正篤の声は棘のある調子に変った、「――おまえは知っているのだ、それで、おれがいつ死ぬかもしれないと思って」