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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁

青空文庫

兄の世話になるわけではない、自分が兄を食わせてやっているんだ。渡辺へ妾奉公にあがっていたときも、月づき仕送りをしていたし、いまでは「かよいだいこく」とかいう恥ずかしいことをしながら、兄を食わせているし、酒も飲ませているのである。

――なにも恐れることなんかありゃあしないわ。

おみやは新八を見た。

「さきに云っておくけれど」とおみやは云った、「兄はちょっと酒くせが悪くって、なにか悪口を云うかもしれません、でもそれは酒が云わせるんですからね、酔っていないときは温和しい気の好い人間なんですから、なにを云われても悪く思わないで下さいよ」

「それは、でも、いいのですか」

「大丈夫よ」とおみやは笑いながら頷いた、「ながい浪人ぐらしで、出世の手蔓はなし、妹のあたしの世話になっているのが自分で辛いんでしょ、それでつい飲まずにはいられないし、飲めば八つ当りをするというわけなのよ」

「貴女は武家出なんですか」

「ええそう、あら、ここの裏よ、泥溝板に気をつけて下さいな」

材木町の大川端に面した家並の、細い路地をはいると、小さな二戸建の家があり、路地のつき当りは、すぐ大川になっていた。